(法人向け)「修繕計画を見直した方がいいの?」高騰する修繕費用の原因と中長期修繕計画の見直し方

工場や倉庫を所有・管理する企業の経営者や総務担当者、施設管理責任者にとって、修繕費用の高騰は避けては通れない課題です。
製造業・物流業など自社建物を長期的に利用する法人にとっては、単に「高い」と感じるだけではなく、「なぜ高くなったのか」その背景を理解し、経営判断の材料として提示することが重要です。
本記事では、修繕費用が上昇している要因を整理し、中長期修繕計画を見直す際のポイントや補助金制度の活用方法などをご紹介します。
目次
1.修繕費用が高騰している背景とは?~2025年の最新動向~

近年、建築資材や人件費の上昇、安全対策コストの増加などが重なり、修繕費用は右肩上がりに推移しています。
ここでは、その背景を具体的にご紹介します。
⑴建築資材や塗料の価格上昇
近年の修繕費用高騰の要因のひとつは、建築資材の価格上昇です。
国土交通省が毎月公表している「主要建設資材需給・価格動向調査」によると、2020年後半から上昇した建築資材価格は、2023年には過去最高水準となり、2025年は、横ばいで推移しています。
ここ数年の建設資材物価指数は全体に上昇傾向にあり、今後も高止まりや横ばいが続く可能性が示唆されています。
今年(2025年)11月に東京製鉄による2年8カ月ぶりの値上げが発表されたH形鋼の価格は、今回の値上げで指標品種の価格を1トン10万円から10万3000円に引き上げます。
長期的には、細巾100×50サイズで2020年12月時点9.1万円/トンから、2025年9月時点では13万円/トンへと約35~40%上昇。
また、建設物価調査会の「建設資材物価指数」では、塗料が2015年基準の100から、2025年には155前後まで上昇しており、修繕工事費用の増加が統計的にも裏付けられています。
⑵人件費の上昇と技能労働者の不足
建設現場では、技術を持つ労働者の高齢化と並行して若手不足が深刻化しています。
特に塗装や防水、鉄骨組立など専門性の高い職種は人材確保が難しく、結果として人件費の上昇につながっており、今後さらに人材不足が加速すると予測されています。
⑶安全対策・法令対応コストの増加
近年はアスベスト除去や外壁調査、耐震補強などの法改正が相次ぎ、工事に付随する調査・施工費用が増加しています。
例えば外壁タイルの定期調査は義務化され、一定規模以上の建物では専門業者による診断が必要です。
また、現場での熱中症対策の義務化など、これらの追加コストは、施工業者にとって「新たな経費」となりやすく、修繕費用全体を押し上げる要因となっています。
2.修繕計画を放置するリスク

修繕計画を後回しにすると、建物の劣化が進むだけでなく、設備機器への影響で生産への影響リスクにつながる恐れがあります。
⑴屋根や外壁の劣化による雨漏り
屋根や外壁のひび割れや塗装の剥がれなどを放置すれば雨水が浸入し、内部の電気設備に漏電を引き起こす可能性があります。
さらに湿気による機器故障やカビの発生は、従業員の健康リスクにも直結します。
特に工場や倉庫では、製品の品質管理にも影響を及ぼし、取引先からの信頼低下につながる恐れがあります。
小さな劣化を軽視することが、大きな損失に直結するのです。
⑵防水・塗装劣化での内部腐食、構造部の損傷
防水層や塗装が劣化すると、鉄骨やコンクリート内部に水分が浸透し、腐食やひび割れを引き起こします。
構造部の損傷は修繕費用を一気に押し上げるだけでなく、安全性の低下にもつながります。
特に物流拠点や製造工場では、建物の強度が業務継続の前提条件であり、計画的な防水・塗装更新は経営リスクを回避するための必須投資といえます。
⑶生産ライン停止・稼働制限による損失
建物の不具合が原因で生産ラインを停止せざるを得ないケースは、法人にとって最も避けたい事態です。
例えば屋根の雨漏りが機械に影響を与えれば、数日間の稼働停止が発生し、数百万円から数千万円規模の損失にもなりかねません。
納期遅延による取引先への信用低下は、金額以上に大きなダメージです。
修繕計画を放置することは、単なる建物の問題ではなく「事業継続性の危機」につながるのです。
⑷税務上の負担集中
修繕を計画的に行わず、突発的に大規模修繕を実施すると、その年度の損益に大きな負担が集中します。
特に法人税の計算において、修繕費は一括で経費計上されるため、利益圧縮や資金繰り悪化を招く可能性があります。
逆に計画的に修繕を分散すれば、税務上の負担を平準化でき、資金計画も安定します。
経営者にとって「修繕計画を放置することは財務リスクを増幅させる」という認識が不可欠です。
3.中長期修繕計画の見直しが必要なサイン

修繕計画を見直すべきかどうかは、建物の状態や過去の履歴、予算状況から判断できます。
ここでは法人が確認すべき代表的なサインをご紹介します。
⑴築20年以上経過し、大規模修繕をまだ実施していない
環境にもよりますが、一般的に、工場や倉庫などの事業用建物は築15~20年を超えると外壁や屋根、防水層の劣化が表面化しはじめます。
国土交通省の「建築物の維持管理指針」でも、外壁や屋根の大規模修繕は15~20年周期が推奨されています。
⑵過去の修繕履歴が属人的で、資料が散逸している
修繕履歴が担当者個人の記録に依存している場合、異動や退職で情報が失われるリスクがあります。
結果として「どこを直したか」「いつ直したか」が不明確になり、次の修繕判断が困難になります。
法人としては、修繕履歴をデータベース化し、第三者が見ても分かる形に整理することが重要です。
⑶修繕積立予算が物価上昇に追いついていない
定期的なメンテナンス実施を見越して、修繕積立金を準備しているケースでも物価上昇のスピードに追い付いていないのが現状です。
積立金額を見直すまたは、早めの対応を進めるなどの検討が必要です。
⑷近年の劣化診断を受けていない
工場など大規模建築物は、専門家からの劣化診断を受けることで初めてリスクが可視化されることも少なくありません。
国交省は外壁定期調査を義務化しており、定期的な診断を実施していない場合は、適切な対応が必要です。
4.中長期修繕計画の見直し手順と修繕コストを抑える戦略&ポイント

修繕計画を見直す際には、現状把握から税務・補助金まで多角的に検討する必要があります。
ここでは具体的な手順とコスト削減の戦略をご紹介します。
⑴中長期修繕計画の見直し手順
ここでは、中長期修繕計画の見直し手順について解説します。
①現状診断
まずは現状診断から始めます。外壁や屋根などの劣化度を調査し、危険度を可視化することが第一歩です。
国土交通省は外壁定期調査を義務化しており、一定規模以上の建物では専門業者による診断が必要です
②優先順位の整理
安全性確保、生産活動維持、外観維持、省エネ効果など、法人にとって重要な観点を軸に順位付けします。
③修繕時期・費用の見直し(物価推移)
資材価格、施工費とも上昇が続いているため、今後の物価推移をある程度予測したうえで修繕時期や修繕箇所、費用全体の見直しを検討します。
④外部専門家による第三者評価
修繕コンサルタントや施工会社など外部専門家による客観的診断、第三者評価は、属人的な判断を防ぎ、経営層に説得力を持たせます。
長期的修繕計画は独自判断で進めるには適切な判断が難しいため、信頼できる相談先を検討しましょう。
⑤補助金・助成制度の反映
修繕計画を見直す際には、国や地方自治体などの省エネ関連補助金の活用も検討します。
法人向けの補助金制度も施行されており、費用の一部を補助金で賄うことで物価上昇による修繕費の負担を削減することができます。
対象となる工事は一定の要件がありますので、要件を満たしつつ、必要な修繕部分にも着手できるような計画とすることも検討しましょう。
⑵減価償却・税制優遇を踏まえた修繕計画の立て方とポイント
修繕計画には税務上の扱いを組み込むことが不可欠です。
修繕費と資本的支出の違いを理解し、減価償却や税制優遇を活用することで、年度ごとの負担を平準化できます。
①「修繕費」と「資本的支出」の違いを理解する
修繕費は建物や設備を原状回復するための支出であり、発生年度に経費として計上できます。
一方、資本的支出は建物の価値や耐用年数を高める工事に該当するため、固定資産に計上し減価償却を行う必要があります。
外壁塗装工事は修繕費とされることが多いですが、耐震補強や増築になると資本的支出と処理されることがあります。
②資産計上部分は減価償却で分割負担が可能
資本的支出として資産計上した場合、耐用年数に応じて減価償却を行います。
これにより、数千万円規模の工事費でも年度ごとに分割して費用化でき、資金繰りを安定させる効果があります。
例えば耐震補強工事を資本的支出として計上すれば、耐用年数に応じて毎年一定額を費用化でき、突発的な損益圧迫を避けられます。
法人にとっては、修繕計画を「単年度の負担」ではなく「長期的な投資」として捉える視点が重要です。
③中長期修繕計画に税務視点を組み込むメリット
税務視点を組み込むことで、修繕費用の平準化や節税効果を得られます。
例えば、修繕費を複数年度に分散させることで利益圧縮を防ぎ、資本的支出を減価償却に組み込むことで資金計画を安定化できます。
税制優遇制度(省エネ改修減税など)を活用すれば、修繕計画そのものが財務戦略の一部となり、経営層にとって意思決定の根拠を強化できます。
⑶修繕コストを抑える5つの戦略
修繕費用は上昇傾向にありますが、戦略的に取り組むことでコストを抑えられます。
ここでは法人が実践できる5つの代表的な方法をご紹介します。
①「資産管理」として定期的な修繕計画の見直し
定期的に修繕計画を見直すことで、突発的な大規模修繕を避け、税務負担を平準化できます。
計画的に修繕を分散させることで、年度ごとの損益を安定させ、資金繰りリスクを軽減できます。
②長寿命化素材・高耐候塗料の採用
高耐候塗料や長寿命化素材を採用することで、長期的なライフサイクルコスト(LCC)を最適化できます。
初期費用は高くても、再修繕までの期間が延びるため、長期的にはコスト削減につながります。
③計画的な一括発注で工事費の削減
足場費や施工費は一括発注でまとめることで費用の削減が期待できます。
さらに、省エネ工事を同時施工すれば光熱費削減効果も得られ、投資効果を最大化できます。
④補助金の活用
一定の要件を満たすことで、補助金制度を受けられます。
費用を軽減するためには積極的に補助金を活用することがポイントです。
⑤修繕パートナー会社との連携
長期的な信頼関係を築いた修繕パートナー会社と連携することで、コスト交渉力が高まり、計画的な修繕を効率的に進められます。
⑷修繕に活用できる補助金制度や税制の優遇と活用のポイント
修繕費用の高騰に対応するには、国や自治体の補助金制度や税制の優遇を計画に組み込むことが不可欠です。
主な補助金制度や税制の優遇(減税など)は次の通りです。
| 補助事業名 | 補助率 | 補助上限 |
| 事業再生機構補助金 | 最大2/3 | 1.5億円 |
| 省エネルギー投資促進支援事業 | 中小企業2/3・大企業1/2 | 30億円 |
| ものづくり補助金 | 1/2または2/3 | 2,500万円 |
| 脱炭素成長型経済構造移行推進対策費補助金 | 中小企業1/2・中小企業以外1/3 | 15億円 |
省エネ・生産性向上を目的とした改修設備に対して即時償却または税額控除が可能(例:断熱塗装・省エネ照明・遮熱屋根改修など)
5.よくある質問

Q1. 最近、修繕費用が高くなった気がします。なぜこんなに上がっているのですか?
主な原因は「資材費」「人件費」「工事需要」の3つです。
塗料・防水材・鉄骨補修材などの資材価格が2020年比で約1.5倍に上昇、さらに、技能労働者不足による人件費の上昇や、老朽化建物の増加による工事需要の集中が影響しています。
工場・倉庫などの大規模建物では、足場や安全対策費も増加傾向にあります。
Q2. 修繕計画はどのくらいの周期で見直すのが適切ですか?
目安は5年に一度、または大規模修繕の前後です。
特に工場や倉庫では、稼働設備や使用環境の変化(湿度・熱・化学薬品など)によって劣化が早まることがあります。
また、物価上昇を反映したコスト見直しを行うことで、急な費用不足を防ぐことができます。
Q3. 修繕を先延ばしすると、どれくらい費用が増えるのですか?
劣化が進むと、最大で2~3倍の費用差が生じる可能性があります。
塗装や防水を怠ると、下地や鉄骨まで腐食し、構造補修+防水再施工が必要に。さらに、仮設費・安全費・生産停止による機会損失も加わるため、早期の点検・補修が結果的に最も経済的です。
Q4. 修繕計画を見直すときに、どんな点を重視すればいいですか?
ポイントは以下の3つです。
- 現状の劣化診断を正確に行うこと(第三者診断が望ましい)
- 物価上昇や人件費を考慮した費用見積もり
- 修繕の優先順位を明確にして段階的に実施
さらに、補助金・助成金を調べることで、費用を抑えた計画が立てられます。
Q5. 工場や倉庫でも補助金を活用できますか?
はい、条件によっては可能です。
国の「長期優良化リフォーム推進事業」や「省エネ改修支援制度」では、断熱・遮熱塗装、防水改修、照明更新などが対象になる場合があります。
福島県やいわき市でも、省エネ・防災対策型改修への補助が行われています(年度ごとに内容は変更されます)。
Q6. 修繕費を抑える方法はありますか?
「まとめて発注+長寿命化設計」がコスト削減のポイントです。
塗装・防水・屋根工事などを同時施工することで、足場費を1回で済ませることが可能になるほか、耐久性の高い材料(フッ素樹脂塗料など)を選定することで、修繕周期を延ばすことが可能です。
Q7. 修繕計画を見直すとき、どのタイミングで業者に相談すべきですか?
築年数が15年以上、または外壁・屋根に劣化サイン(ひび・サビ・白化)が見られた時点で相談しましょう。
また、工場の稼働スケジュールに合わせて計画を立てるため、繁忙期前の見積・計画立案が理想です。
Q8.修繕計画の見直しは、減価償却や税務上のメリットにも関係ありますか?
はい、あります。修繕工事は「資本的支出」か「修繕費」として処理するかで、会計処理・節税効果が大きく変わります。
修繕費は経費処理に当たり、建物の現状維持や軽微な補修実施は、年度の損金に計上可能です(例:外壁塗装、防水補修、部分交換など)。
それに対して、資本的支出(資産計上)は価値を高める・耐用年数を延ばす工事に当たり、減価償却資産として複数年で償却します(例:屋根全体の張替え、断熱性能強化、防災強化改修など)。
このため、中長期修繕計画を立てる段階で「税務処理区分」を意識しておくと、会計上の負担を平準化し、資金繰りを安定させることができます。
Q9. 減価償却を考慮した修繕計画を立てるメリットは?
計画的に修繕を実施することで、以下のメリットがあります。
- 費用を年度ごとに分散できる(節税・キャッシュフロー改善)
- 資産価値を維持しながら、帳簿価額のバランスを保てる
- 決算時の突発的な費用発生を防げる
- 金融機関・監査対応時にも、計画性のある資産管理として評価されやすい
つまり、「修繕計画=資産マネジメント計画」として見ることが、中長期的なコスト最適化につながります。
Q10. 補助金や税制の優遇(減税制度など)と修繕計画は連携できますか?
はい、連携可能です。記事内でご紹介した通り、例えば、2025年11月現在、事業再生機構補助金や省エネ投資支援事業、ものづくり補助金、脱炭素成長型経済構造移行推進対策費補助金、中小企業経営強化税制などと連携できる可能性があります。
補助金や税制の優遇を計画に組み込むことで、修繕費用の最適化を検討しましょう。
6.まとめ

修繕費用の高騰は、資材価格・人件費・法令対応コストの複合的要因によるものでありますが、放置すれば建物劣化や生産停止、税務負担集中など法人経営に直結するリスクを招きます。
築年数や修繕履歴、予算状況を確認し、第三者評価や補助金制度を組み込んだ中長期修繕計画を策定することが重要です。
さらに、修繕費と資本的支出の区分を理解し、減価償却や税制優遇を活用すれば、財務負担を平準化できます。
補助金制度も活用しながら、長期的なメンテナンス計画を立てていきましょう。
- カテゴリー : 工場・倉庫、修繕・リフォーム / 減価償却&耐用年数